音楽は人生を豊かにする|#01尺八教室の記録

「あなたの趣味は何ですか?」
そう聞かれて、ぱっと答えられない自分がいます。
好きなことはたくさんあるのに、毎日時間が足りないと思いながら過ごしていて、
気づけばその多くが“趣味”というより“仕事”につながっているような気がするのです。
音楽は、物心ついた頃からずっとそばにありました。
とはいえ決してサラブレッドでもなく、特別に器用だったわけでもないけれど、
切っても切り離せない存在です。
尺八教室で出会った、生徒さんたち
長く尺八教室を続けていると、本当にさまざまな方と出会います。
多くの生徒さんにとって、尺八は「趣味」。
私は、その趣味を楽しく、心地よく続けてもらうためのお手伝いをしている立場です。
趣味があるということは、人生に彩りを添えること。
それ以上でも、それ以下でもない。
けれど、その彩りがあるかどうかで、人生の見え方は大きく変わるのだと思います。
忘れられない、ひとつのレッスンの記憶
教室を始めて間もない頃、今から10年ほど前のことです。
琴古流を長く学ばれ、「演歌を吹けるようになりたい」と通ってくださっていた生徒さんがいました。
とても元気な方で、バイクでレッスンに来たり、
大きな筍を抱えて現れたりする、ユーモアあふれる方でした。
持病を抱えながらも、いつも前向きで明るい姿が印象的でした。
ある日、その方が末期の肺がんを患っていることを知りました。
ご本人も大きなショックを受けながら、懸命に回復の道を探していました。
やがて、レッスンに来られなくなり、
「尺八を吹いている時は楽になるけれど、もう苦しくて…」
というお電話をいただきました。
奇跡を願いながらも、覚悟しなければならないことは分かっていました。
「たかが趣味、されど趣味」
私は、祭壇の前で献奏をしました。
血のつながりのない方の葬儀で、言葉を添えて演奏する日が来るとは、想像もしていませんでした。
この出来事は、私の心に深く刻まれています。
たかが趣味、されど趣味。
誰かの人生に、確かに彩りを添えていたのだと。
こうした形で人と関われることは、不思議で、ありがたいことだと今も思います。
人それぞれの「学び方」がある
だから私は、一人ひとりに合わせた指導を大切にしています。
同じ曲を練習していても、求めているものは人それぞれ。
ゴールは同じでも、そこへ向かう道は違うこともあります。
言葉ひとつ、声のトーンひとつで、伝わり方は大きく変わる。
もちろん、すべての人と完全に分かり合えるわけではありません。
人には相性があり、無理をしない距離感も必要だと感じています。
私にできることは、常に最善を尽くすこと。
そのために、自分自身の学びも続けています。
芸術は、人生を豊かにする
今年は作曲のために、東洋・西洋哲学の本を読む機会があり、
ニーチェの思想に触れる中で「芸術は人生を豊かにする」という言葉に救われました。
日々、不安を煽る情報に囲まれていると、
音楽は役に立たないのではないか、という気持ちになることもあります。
それでも、最後に残るのは
お金や名誉ではなく、心の豊かさなのかもしれない。
そう思いながら、これからも誰かのために音楽を届けていきたい。
そしていつか、自分自身の心を満たす「趣味」にも出会えたら――
そんなことを、最近は考えています。


